スティーブ・ジョブズの伝説のスピーチ(日本語字幕付き)
スピーチの全文(英語)はスタンフォード大学の公式ページに掲載されています。
http://news.stanford.edu/news/2005/june15/jobs-061505.html
要約 : ジョブズが伝えたい、三つのこと
- 点と点を繋ぐ
- 「好きなこと」と「失うこと」について
- 生と死について
※ 以下、要約です。全文の翻訳ではありません。
点と点を繋ぐ
スティーブ・ジョブズは、リード大学を最初の半年で退学したが(学費の都合)、すぐに辞めるのではなく、後の18ヶ月は在籍して、カリグラフィの授業を受けた。
そこで学んだ書体の知識が、後にMacコンピュータの美しいフォントに繋がった。
ジョブズも最初から「フォントの美しいコンピュータを作る」という目的があったのではなく、Macを進化する過程で、大学時代に学んだカリグラフィの知識が思いがけなく役に立った、という喩え。
「好きなこと」と「失うこと」
ジョブズは、人生の早い時期に、『コンピュータ』という生き甲斐に出会うことができた。
盟友スティーブ・ウォズニアックと『Apple』を立ち上げ、大企業に育て上げたが、経営方針をめぐる対立から、30歳で、自身で創業した会社から解雇されるという苦渋を味わう。
Appleから追い出されたジョブズは、NeXT(またの名をPixar ピクサー)という新しい会社を立ち上げ、世界初の3Dアニメ映画『トイ・ストーリー(Disney公式サイトを見る)』の成功を経て、再びAppleに返り咲くことができた。
信念に基づき、大好きなことに打ち込んでいたら、途中で躓いても、再び道は開ける。より良い人生を生きたければ、心から好きと思えるもの、全力で打ち込めるものを見つけなさい、という喩え。
死について
ジョブズは、17歳の時、「今日が人生の最後の日と思って生きなさい」という名言に感銘を受け、毎日、そのように自分に問いかけながら生きてきた。
「もし今日が人生最後の日とするならば、それは、本当に今日すべきことなのか」と。
ジョブズ氏は、スピーチの一年前、膵臓がんの宣告を受け、人生には限りがあることを痛感した。
そのように、若い人たちも、常に死を意識しながら(もし今日が人生最後の日なら)、一日一日を大切に生きなさい。
こうあるべきという常識や定説に囚われるな。
ハングリーであれ、愚かであれ(解説は後述)
Stay hungry, Stay foolish
人生に必要なハングリー精神と一途になれる「ばか」
スティーブ・ジョブズの名言で、最も有名なのは、スタンフォード大学の卒業生に向けた『伝説のスピーチ』の最後の一文、「Stay hungry, Stay foolish」ではないだろうか。
直訳すれば、「ハングリーであれ。愚かであり続けろ」。
Be hungry, Be foolish ではなく、「Stay」=状態の継続を意味しているところが、このメッセージの心髄だ。
また、日本語では、fool は「愚か」と訳されるが、ジョブズの意味する fool は「低脳」「愚人」の意味ではなく、1年365日、朝から晩までそれしか頭にない、一途になれる「ばか」である。(例 「ラジコンばか」「漫画ばか」)
ジョブズのfoolには畏敬の念があり、「愛すべき」という枕詞が付く。
何故なら、時が経つのも忘れて夢中になるほどの、熱気、狂気、根気がなければ、到底、一事は成し得ないからだ。
しかも、一瞬だけ「ばか」になるのではなく、生涯にわたって、「ばか」で有り続けろ。
それがジョブズからの最大のメッセージだ。
そして、人間が「ばか」であり続けるには、モチベーションの継続が何よりも重要だ。
ちょっと成功したら、もうそこで満足して、自分は成功者とふんぞりかえる。
それ以上、追い求めることもなければ、自らを省みることもなく、自分は誰よりもスマート(利口)になった気分で、努力よりも、結果と評価ばかり気にかけるようになる。
だが、そんなスマートな人々が、その後、どうなったかは、火を見るより明らかだ。
出だしはスローでも、熱気・狂気・根気を持ち続ける人が、最後には偉大なことを成し遂げる。
飽くことなく、満ち足りることもなく、飢えたオオカミみたいに目標に向かって突き進む。
そのハングリー精神こそが、不可能を可能にし、世界に革新をもたらすのである。
点と点をつなげ ~無意味なことに成功のヒントあり
また、ジョブズの言葉で、非常に説得力があるのが、「connecting the dots(点と点をつなぐ)」だ。
これはコンピュータのドットと掛け合わせた、ジョブズ氏のレトリックだが、人生もかくの如し。
世の中には、医者一家に生まれ、幼少時から医学部コースの訓練を受けて、周りの期待通り医者になる人もあるが、一方で、子供時代に手塚治虫の漫画『ブラックジャック』を読み耽り、医学に興味はあったが、自分の進路とは考えず、将来はバイオテクノロジーでをやるつもりで理系の塾に通っていたが、帰り道、人が横断歩道ではねられるのを目撃し、怖くて何も出来なかった衝撃が、数年後に心を揺り動かし、「医者になろう」と思い立つ人もいる。
また、世界初の抗生物質『ペニシリン』を発見したアレクサンダー・フレミングも、最初から狙い定めてペニシリンを研究していたわけではなく、様々な偶然が重なって、ペニシリンが発見されたこと。
細菌を培養するにあたって、画家のアートクラブで学んだ知識が、細菌培地の色づけに大いに役立ったことも、「点と点をつなぐ」の典型例と言える。
(フレミングのエピソードはフレミングのWikiでも紹介されています)
つまり、最初から狙って道筋を作るのではなく、仕事や学習の過程で見聞きしたことが、ある日、突然、自分の中で結晶化し、一つの道筋に繋がっていく。
それも、決して偶然の賜ではなく、フレミングのように、「人を救う薬を作りたい」という絶え間ない努力と執念が、閃きとなって、その人を打つのである。
近年はコスパ重視で、無駄なことや時間のかかることは敬遠されがちだが、人生の初期の段階で、「本当に必要なもの」「必要でないもの」など、誰にも分からないし、以前は必要なかったものが、十年後、二十年後に、突如として意味を持つこともある。
何でも、見た目や評判で判断し、あれも要らない、これも不要と切り捨てていたら、『点』となるものも身につかないのではないだろうか。
点はあくまで「点」に過ぎず、点と点をつないで、一つの道と成すのは、その人の運や能力にもよる。
だが、点そのものは、個人の努力や働きかけによって、いくらでも増えるので、持ち点が多いほど有利にこしたことはない。
最初から綺麗に道筋のできた人生など、あろうはずがなく、多くの人は、あっちの点、こっちの点を行きつ戻りつしながら、道を模索しているものだ。
だが、それらの労力が報われるか否かは、何よりも、熱気・狂気・根気にかかっている。
ジョブズが『Stay hungry, Stay foolish』と説く所以である。
若さの特権とは
ともあれ、若い時分は、頭の中を空っぽにして、人生を懸けるに値するテーマを探し求めるといい。
「人生に目的なんかない」「好きなことなどなくても生きられる」というのも、その通りだが、それだって、誰かが言い出した概念であり、自分自身で考えついたことではない。
寺山修司が『時速100キロの人生相談』という著書の中で、「きみには、だれかが作った概念がいっぱい詰まっていて、きみ自身の肉声がない。肉声を軽蔑するものは、軽蔑すべき肉声しか持つことができない」と言い表していたが、本当にそう。
昨今は、SNSの影響もあり、常に誰かの概念に振り回され、自分の頭で考えているようで、実は、あちらこちらから洗脳されているのが現状ではないだろうか。
いつの時代も、頭の固いもの、誰かの概念で頭の中がいっぱい詰まっている者に成長はなく、無垢な道化だけが、誰にも踏破したことのない道を黙々と歩いて行けるものだ。
その点、若者は、経験や知識のないことがかえって幸いし、いくらでも、ジョブズの言うところの「ばか」になれる。
間違っても、「まだ若いから」で許され、ちょっと物を尋ねただけで、「若いのに、心がけが立派」と褒められるのも、若者の特権だ。
同じことを年寄りが尋ねたら、「そんなことも知らないのか」と嘲られるだけである。
近頃は、誰よりも早く「何ものかになりたい」と望む若者も多いが、そんなに早く「何ものか」になってしまったら、それ以降、変わりようがないだろう。
フリーで売ってる人は、二度と会社員になれないし、○○主義で有名になれば、撤回もできない。
何ものでもないからこそ、貪欲にチャレンジし、いろんな人に教えを請うことができる。
無こそ、最強。
foolishであり、nothing(何ものでもない)であることを、もっと前向きに捉え、本当の意味で自由な人生を謳歌してはいかがだろうか。
伝記映画『スティーブ・ジョブズ』
スティーブ・ジョブズの伝記映画は、ダニー・ボイル監督、マイケル・ファスベンダー主演の『Steve Jobs |』と、ジョシュア・マイケル・スターン監督、アシュトン・カッチャー主演の『Steve Jobs』の二種類あるが、純粋に元気が欲しければ、青年期のジョブズの起業、挫折、再起を描いた、アシュトン・カッチャー版がおすすめ。
アシュトン・カッチャー版
スティーブの大学時代の試行錯誤から、Appleの創業、追放、再起までを描く。
時期的には、iMacシリーズが誕生するまで。
有名な『Think different』のCMをレコーディングする場面で終わる。
ストーリーも分かりやすく、パソコン大好きのオタクの熱気が伝わって、好感が持てる。
オールインワン型PCのアイデアを話した時、「そんなもの誰が欲しがるんだ」と訝るウォズニアックに対し、「誰も見たことがないものを、誰が欲しがるんだ」と言うジョブズの答えがいい。
マイケル・ファスベンダー版
マイケル・ファスベンダー版は、成功者ジョブズの内面に迫ろうとしたが、エピソードが分散して、いまいち分かりにくいのが難点。
だが決して駄作ではないので、興味のある方は、一度、見てみたらいいと思う。
Think different, Make difference 「違い」とは何か
10年ほど前、アメリカの親戚に、中高校生向けの「歴代・アメリカ大統領 百科」を見せてもらったことがある。
巻頭に寄稿していたのはジョージ・ブッシュ元大統領。「若い君たちへのメッセージ」の最後の締めくくりは「make difference」。
「歴代のアメリカ大統領はみなそれぞれにユニークだった。誰の真似でもない、独自の人生を創り出しなさい」みたいな内容だった。
それよりもう少し前、スケルトン調の可愛いiMacが世界中を魅了した時、毎日のようにTVで流れていたコマーシャルがこちら。
英語ナレーションだが、字幕も出るので、自動翻訳でお楽しみ下さい。
Appleのキャッチフレーズも「Think different」。
日本語訳は、
クレイジーな人たちがいる。反逆者、厄介者と呼ばれる人たち。
四角い穴に丸い杭を打ち込むように、物事をまるで違う目で見る人たち。
彼らは規則を嫌う。彼らは現状を肯定しない。彼らの言葉に心をうたれる人がいる。
反対する人も、賞賛する人も、けなす人もいる。
しかし彼らを無視することは誰にもできない。
なぜなら、彼らは物事を変えたからだ。
彼らは人間を前進させた。
彼らはクレイジーと言われるが、私たちは天才だと思う。
自分が世界を変えられると本気で信じる人たちこそが、本当に世界を変えているのだから。
スティーブ・ジョブズの死後、スタンフォード大学で行われた卒業スピーチの締めの言葉、「stay hungy, stay fool」がにわかにクローズアップされているが、私は「Think different」というキャッチフレーズの方が100倍ぐらい好き。このCMも流される度にTV画面に釘付けになった。これほど人の心を鼓舞する言葉もあるまい、と思う。もし、あなたが、独創的なアイデアを持っているならば。
*
ところで「違い」とは何だろう。
周りがみんなスマートフォンに買い換えても、オレはガラケー派と頑張ることか。
みんながゆるかわウェーブを始めても、私はトサカにワンレンを通すことか。
一目見て「あの人、違うね」と分かるような違いは大して問題じゃない。
まして、持ち物とかライフスタイルとか言動とかにおいて、人と差を付けて目立てばいい、というものでもない。
私が思うに、「ここぞ」という時に自分を主張できる強さだと思う。
それこそ誰が見てもクレイジー、成功するわけがない、というようなアイデアに、自分を懸けられることだ。
人と違う発想するぐらい誰にでも出来るし、周りに上手くアピールして自分を10にも100にも見せることも簡単だ。
でも、世間の総スカンにあっても自分の主張を貫くのは勇気が要るし、その為に地位や財産やキャリアを失うかもしれないとしたら、途端に保守的な選択をする人が大半だ。
Think differentも、Make differenceも、まさに人生をかけた一人称の世界。
昨日今日の思いつきで実践できることじゃない。
*
でも、実際には、そこまで気負う必要ないのよ。
分かる人には分かるものだから。
「これはレジェンドになる」──そういう確信があるから、命をかけても主張し、実行し、敵の銃口に心臓を向けるような真似が出来るわけで、別に頑固でも、やけっぱちでも、何でもないのね。ほんと、確信犯。
よほどのバカでもない限り、何の予感もない事に命を懸けたり、全財産を注ぎ込んだりするようなことはないよ。
もうね、彼らには自分やアイデアが「選ばれた」ってことが分かってるの。あえて口に出して言わないだけで、確信があるのよ。人はそれを「信念」とか「意志」という言葉で表現したがるけどね。
*
だから、特別になるために──違いの分かる人になるために──わざわざ訓練や工夫などしなくても、とにかく目の前のやるべき事、やりたい事に集中する、それが第一だと思う。心の奥に「どうしたらいい?」という執念みたいな疑問と意欲を持ち続けて。
そのうち、ふと、トイレでしゃがんだ瞬間に「コレだ!」と閃くでしょう。
通勤途中、なにげに目に入った雑誌の吊り広告に神の啓示のような一言を見出すかもしれません。
「違い」は神様からのギフト、それを実行するのは人間の業です。
でも、神の啓示を待つ間、たいていの人は退屈するか絶望するかで、ゴールの三歩手前で引き返しちゃうんですよね。。。
Think Different (1997年のCM)
こちらも一世風靡したAppleのCM。
1997年より放映され、スケルトン型のiMacも売れに売れた。
それまでパソコンといえば、黒か銀色が主流で、『おっさんのオモチャ』というイメージだったが、iMacの登場で世界は一新した。
もちろん、スティーブ・ジョブズがデザインしたわけではないが(そのエピソードは、アシュトン・カッチャー版の映画にちょろっと登場する)、スケルトンを採用したジョブズのセンスは素晴らしい。
iMacといい、iPodといい、若者文化を一新したアイテムだった。
だが、ジョブズにインスピレーションを与えたのは、SONYの『ウォークマン』であり、日本が誇る創業者・盛田昭夫と技術者・井深 大、大曾根幸三、黒木靖夫らであることを忘れてはならない。
初稿 2011年1月9日