ポーランドの結婚式は、私にとって甘美なものではありませんでした。ポーランドの披露宴は一晩中続く上(地域によっては三日三晩ぶっ通し)、新郎新婦の愛のダンスを披露しなければならないからです。
タカラジェンヌじゃあるまいし、「ダンスを踊れ」と言われても、そう簡単に踊れるものではないです。式の前夜、ダンスが得意な知人夫婦が教えてくれましたが、いざダンスが始まると、ドレスの裾は踏むわ、ハイヒールは脱げそうになるわで、私も夫も穴があったら入りたいほどでした。記念のビデオには、相撲のがぶり寄りのようなダンスの映像が残っていて、今でも恥ずかしい思い出の一つです。
しかも花嫁は、男性の招待客に誘われたら必ずお相手をするのが礼儀で、席でゆっくり休んでいる暇もありません。次から次にダンスのお相手をして、午前4時に最後の招待客が帰った時には、ドレス姿のままホテルのベッドに倒れ込んだものです。
夫曰く、「招待客は、ダンスぐらいしか花嫁に触れるチャンスがないからね。それに花嫁をダンスに誘うのも、男性の礼儀なんだよ」。
つまり、女性をダンスに誘うのは、相手の魅力を讃えるのと同じ、女性がお年寄りだろうが、好みのタイプじゃなかろうが、声もかけずに放っておくのは騎士道に反するのです。
ちなみにポーランドでは、ダンスを申し込む時にはちゃんと腰をかがめ、女性の手の甲にキスをして、「一曲、お相手を」と誘います。たとえ若くてハンサムな男性でも、一朝一夕には身につきません。
また、ポーランドでは、年末のカウントダウンや祝賀パーティーなど、めでたい催しでは必ずといっていいほどダンスが踊られます。お年を召した方でも、それはそれは皆さんお上手で、「ほうっ」と見惚れてしまうほど。とりわけ、結婚して何十年も経つ高齢のご夫婦のダンスは、共に重ねた年月がにじみ出すようで、本当に美しく感じます。
「ベルばら」では、オスカルもマリー・アントワネットもダンスの名手でしたが、そんな華やかさとは無縁の男性がありました。フランス国王、ルイ16世陛下です。妻マリーを誰よりも愛しながら、冴えない自分に強いコンプレックスをもち、ダンスを申し込むことさえ出来ませんでした。
「ダンスぐらい誘えばいいのに」――若い女性はそう思うかもしれません。しかし、コンプレックスを抱えた男性の心理は、女性が思い描いているより、ずっとデリケートなもの。なけなしの勇気を奮い立たせて、声をかけたところで、冷たくあしらわれたり、鼻先で嗤われたりしたら、もう二度と立ち直れないぐらい落ち込み、傷つき、恐怖します。
陛下だって、愛する妻とロマンチックに踊ってみたかったでしょう。他の男性のように、彼女の魅力を崇め、賛美し、その愛を思いきり伝えたかったに違いありません。
でも怖かったのでしょうね。「自分なんか」という劣等感が歯止めをかけて、遠くから見つめているのが精一杯でした。
マリーだって、心底陛下のことを嫌っていたわけではないのですから、勇気をもって誘えば、きっと応えてくれたでしょうに、陛下にとって、マリーはあまりに眩しい存在でした。
ダンスというのは、単に踊りを楽しむだけではなく、男性が女性に歩み寄る一つのきっかけでもあります。憧れの女性にいきなり話しかけることはできなくても、「一曲、踊って頂けますか」というダンスの申し込みなら、会話のきっかけになりますものね。
「ベルばらKids」では大活躍のルイ16陛下。せめて夢の中では、最愛の妻マリー・アントワネットとロマンチックに踊る場面を見せてあげたいと思うのです。
コミックの案内
「ルイ・シャルル王子はフェルゼンの子供」という噂がルイ16世の耳にも届くと、マリー・アントワネットは、「お信じくださいませ! ちかってルイ・シャルルは国王陛下の御子でございます!」と涙ながらに訴えます。しかし、ルイ16世は美しい妻を不憫に思い、厳しく咎めることはありませんでした。
女性も結婚して、大人になれば、ルイ16世の良さが分かります。
第5巻『オスカルの苦しみ』では、オスカルが近衛隊からフランス衛兵隊に転属し、階層の違いに苦しむ過程が描かれています。
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オリジナルの扉絵はこちら。大人の色香を感じる、印象的な表紙です。
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ポーランドの結婚式とウェディングダンス
いわゆる『First Dance』と呼ばれるものです。ポーランドに限らず、欧米では、新郎新婦のダンスを採り入れているウェディングが大半だと想います。
しかし、こんなの真顔でできないですよ。周防監督の『Shall We ダンス?』の世界が私の感覚。
ちなみに、披露宴で生バンドを雇うのも普通。ウェディング専門のバンド業も盛んで、人気バンドになると、予約も数ヶ月待ちとか。
また、バンドの規模で、家の格も決まる(?)ところがあって、3人から10人以上まで様々です。
こちらはインド人男性とポーランド女性の結婚式の模様。トラディショナルに、花嫁は自宅で着付けをし、両親やきょうだい・知人と挨拶を交わして、ウェディング会場に向かいます。結婚式場で準備するのは日本ぐらい。昔は日本も自宅で準備をしていたのでしょうが、すっかり産業化しました。
しかし、ポーランドのウェディングのどんちゃんは、Kayahのビデオに象徴されるような感じです。みなウェディング・ウォッカの飲み過ぎで、翌日は二日酔い、という……。こちらは披露宴で必ずといっていいほど演奏される大ヒット曲の『Prawy do lewego』。
踊って踊って踊りまくります(一晩中)。
一曲終わって、席に着く度に、次の人がダンスの申し込みにやって来るので、座ってるヒマがありません。
でも、それが女性(花嫁)に対するマナーだそうです。花嫁にダンスも申し込まずに放っておくのは騎士道に反する、と。
花嫁は雛壇に座って、食事も小鳥ほどにしか口にしないのが常識……というのとは随分違います。
日本人の私にはやっぱコレですよ。周防正行監督の『Shall we ダンス? 』。これは本当にいい映画でした。
真面目な中年サラリーマンがふと人生の空虚を感じて、ダンス教室の美人教師に憧れ、社交ダンス教室に通う物語です。
竹中直人のラテン系、渡辺えり子のムンムンとしたおばさんダンス、ちょろっと登場する森山周一郎(舞ちゃんのお父さん)がものすごい存在感で、誰もが愉しめるコメディドラマ。個人的には、グループレッスンを担当する「たまこ先生」(草村礼子)さんの大ファンです。かなり年配なのですが、足さばきが非常に綺麗で、見惚れてしまいます。