魔夜峰央の『パタリロ』について
作品の詳細
パタリロ (1978年より連載開始)
登場人物 : パタリロ(マリネラ国王)、ジャック・バンコラン(美少年キラーの異名をもつMI6の凄腕)、マライヒ(バンコランの愛人)、タマネギ部隊(パタリロの護衛・素顔は美青年)
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あらすじ
ダイヤモンド産業で潤う、常春の国マリネラ。
10歳で即位したパタリロは、異様な才能をもつ、超早熟のへちゃむくれ。
英国情報部MI6の凄腕で、美少年キラーの異名を持つジャック・バンコラン、元殺し屋で、愛人でもある美少年マライヒらを巻き込んで、様々な怪事件を解決する。
基本的に一回読み切りの短編だが、『大魔王アスタロト編』のように、シリーズが続くこともあり、それはそれで読み応えがある。
最近、編纂された文庫本では、時系列がバラバラで、キャラクター相関が把握しにくい難点もある。
ちなみに筆者は、第一巻からリアルタイムで体験した、第一次ブームの読者。
貪欲で博識だった昭和の少女漫画ファン
二次創作と言えば、オリジナル漫画家である魔夜峰央先生に大変失礼かもしれないが、パタリロに登場するギャグの多くは、「宝塚」「風と木の詩」「ポーの一族」「ベルサイユのばら」など、いわゆる少女漫画の24年組系列の作品をベースにしており、本作のファンは、魔夜峰央の読者であると同時に、萩尾望都、竹宮恵子、池田理代子、山岸凉子などの熱心な信者でもある。
たとえば、パタリロのギャグの一つに、
「どうぞ、僕は君からもらう」
というのがあるが、この台詞の意味が分かるのは、萩尾望都ファンだけである。(正解は、『ポーの一族』で、吸血鬼であるエドガーがアランに言う言葉。もらうものは血液)
このように、全編、「分かる人には分かる」という、二次創作的なギャグが随所に取り入れられている為、元ネタを知らないと、少々、理解するのが難しいかもしれない。
それでも、パタリロの言動やギャグの鋭さは、従来の少女漫画をはるかに超越しているし、24年組系に興味のない子も、「元ネタを知らなくても、十分に面白い」と言っていた。
また、ギャグだけでなく、随所にちょこっと、人の優しさや淋しさ、人生の儚さや、恋の切なさなどが織り込まれ、ドタバタ劇の中にシリアスなテーマが程よくブレンドされているのも人気の秘密だろう。
私自身は、『大魔王アスタロト公爵』のシリーズで卒業したが、第一巻からそこに至るまでのエピソードは何度でも読み返したくなるほど好きだし、ギャグの元ネタが理解できるオールドファンがだんだん失われているのが非常に残念でならない。
また、本作は、24年組系の漫画だけでなく、西洋史や西洋美術、銀幕の名画、ジャン・コクトー、エドガー・アラン・ポー、オスカー・ワイルド、レイ・ブラッドベリといった、古今東西の名作も取り入れており、第一次パタリロブームに熱狂したのも、こうした文化に精通し、24年組系をこよなく愛する知的な女性ファンである。
一つの作品、一つのジャンルに留まることなく、あれもこれも食い倒し、美しいものや面白いものを貪欲に求め続けた世代だから、様々な名作のエッセンスを凝縮した、パタリロの二次創作的なギャグに反応し、感動を共有したのだ。
思えば、当時はITもSNSもなく、漫画情報といえば、漫画誌の巻末ページの「編集部だより」や、同じクラスの漫画ファンの口コミだけが頼りだった。
にもかかわらず、何故、これほどまで、我々は博識、かつ巨大な潮流になり得たのか。
それは、娯楽も情報源も限られていたのが逆に幸いしたからだ。
スマホもPCもない時代、どうやって暇を潰すかといえば、友だち同士、雑誌やコミックを持ち寄って、何時間も誰かの部屋で読み耽る以外、ないだろう。
その過程で、週刊フレンド派、週刊マーガレット派、花とゆめ派など、個々の好みとウンチクが交わって、1つのものが、10にも100にも膨らんでいく。
また、漫画好きの兄弟がいれば、女子の環にも、少年チャンピオン系やビッグコミック系が入り込んでくるし。
全ては密な交流と集中力の賜で、パタリロは、それを象徴するような、究極の二次創作と思う(もちろん褒め言葉)
魔夜峰央先生には、今後ますますのご活躍をお祈りしています。
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「だぁれが殺した クックロビン」「それは私と、スズメが言った」
萩尾望都の『ポーの一族』に登場するマザーグースの1篇。原題は'Who Killed Cock Robin'
こういうアニメを土曜日のゴールデンタイムに堂々と放映していて、もちろん、バンコランとマライヒのラブシーンもありました。
お茶の間で「あ……ダメ……バン……」みたいなのが流れてたとか、現代の子供には信じられないでしょうね。
初稿 2016年11月7日