海洋小説 MORGENROOD -曙光では、拾いの神と称されるアル・マクダエルが潜水艇パイロットのヴァルター・フォーゲルをスカウトする為に、荒れ果てたトレーラー村までやって来ます。
アルは、海の惑星アステリアに眠る海底鉱物資源の採掘を計画していましたが、本採鉱を前にプロジェクト・リーダーが失踪し、急遽、深海で接続作業のできる高度技能者が必要になったからです。
しかし、ヴァルターは、最愛の父を故郷の大洪水で失い、壊滅した干拓地の再建をめぐるアイデアコンペでは不正を疑われ、すっかり自信を無くしていました。
下記の場面は、アルが初めてヴァルターに出会い、アステリアの海洋開発と海底鉱物資源の採掘について語り合う場面です。
「海の本当の価値が分かるのは数億年後」と屁理屈を並べるヴァルターに対し、アルは今、現在を生きる命の大切さを説きます。
二人のやり取りがドラマティックに展開する場面です。
【小説】 生命の始まりは微生物 ~海の本当の価値が分かるのは数億年後
【資料】 海底鉱物資源の採掘は海洋環境を破壊するのか
小説では、主人公のヴァルター・フォーゲルが環境破壊を理由にアル・マクダエルに反発しますが、実際、海底鉱物資源の採掘に対して、海洋環境保護の観点から、反対する声は根強いです。
主な理由は、次の四つです。
- 洋上施設や重機からの重油、産業廃棄物の流出
タンカーや石油リグでも問題になっています。 - 鯨やイルカなど海洋生物への騒音被害
海の中では音波が遠くまで伝わるため、イルカのように超音波でコミュニケーションをとっている海洋生物への被害が懸念されます。 - 破砕機や集鉱機が海洋性植物までカッティングしてしまう
海底の重機には植物と鉱物を識別する機能はありません。貴重な海洋性植物の群生を破壊する怖れがあります。 - 熱水噴出孔を破壊する
活動を終えたデッドチムニーでも、地学的、生物学的に貴重な資料であることに変わりはありません。海底鉱物資源の採掘は、これらを根こそぎ破壊する怖れがあります。 - ミクロの生命圏を脅かす
海底にも大型から微生物まで、様々な生命が存在します。たとえ微生物でも、海洋システムの一端を担う貴重な存在です。いまだ解明されてない部分も多いため、水深数百~数千メートルの海底であっても、こうした生命圏が破壊された時の影響が懸念されます。
この動画は海底鉱物資源の採掘による海洋生物種の危機を訴えるプロモーションビデオです。支援船や重機の操業によって甚大な被害を与えると警告しています。
こちらのドキュメンタリーは、地上の鉱山業が将来的には行き詰まり、海底鉱物資源に目を向けざるを得ない現実と、操業による生物圏の破壊を懸念する声と、バランスよく報じています。
【コラム】 鉱業問題は人類の問題
どんな産業にも問題はつきものですが(特に環境破壊に関する)、鉱業も著しい問題を孕んでいます。日本はチリやオーストラリアのように大きな鉱山がないので、国家的戦略としての鉱山業を間近に見る機会もないですが、鉱物資源の確保は、食糧自給と同じくらい切実な問題であり、いくら高度な技術を誇っても、それを形にする物質(マテリアル)がなければ、どうにもならないのが現実です。
(参考 鉱業問題が手軽に分かる ゴルゴ13『コルタン狂想曲』 / タンタルと携帯電話)
環境問題や人道問題など、生命に関わる問題を全て解決しようと思えば、スマホもパソコンも車も捨てて、原始の時代に逆戻りする他なく、もはやそんな選択肢は地球上に存在しないことは自明の理でしょう。
それでも、無関心に生きていくか、少しでも関心を向けるか、選択することは可能だし、考えることは決して無駄ではないと思います。若い世代を中心に、「買わない、欲しがらない」、リサイクルやサステナブルな考えにシフトしているのも、個々の意識が全体を変える証しではないでしょうか。
鉱業問題について考えることは、政治経済のみならず、未来の人類の生き方を決めることでもあり、猶予はありません。スマホやパソコンを手放せないなら、せめて、それらの材料がどこで、どのように採取され、製品化されるのか、知っておくだけでも、世界を変える原動力になると思います。
昔から言われていることですが、無知と無関心こそ、最大の敵であり、必要以上に欲しがる気持ちがたった一つの地球を台無しにします。
この地球に人類が誕生したことこそ奇跡なのですから、その奇跡を大切にしたいものです。
【動画】 地球創生と生命の誕生
地球の創生から生命誕生、繁栄の歴史を描いた科学ドキュメンタリーです。
長編ですが、CGも美しく、構成もよくて、とても見応えのある動画です。
特に含水鉱物と上部マントルの相互作用により、徐々に地球の環境が生物の繁殖にふさわしい状態に整っていく過程は奇跡という他ありません。
書籍の案内
上記のパートは、第1章『運命と意思』に収録されています。
Kindle Unlimitedの対象作品です。ストアで立ち読みもできます。