【音楽コラム】 スティングの魅力
スティングの名言『オレのように歌えるやつはいない』
数あるスティング語録の中で、最も好きなのが、「オレより上手に歌うやつはたくさんいるが、オレのように歌えるやつはいない」
これが『自尊心』。
本当の意味での『自信』というものです。
歌に限らず、絵でも、ダンスでも、仕事でも、恋愛でも、自分より優れた人間はたくさんいるもの。
にもかかわらず、自分の持ち味を自分自身で理解し、それを「何ものにも恥じない」気持ち、それが生涯を貫く自尊心であり、揺るぎない自己への信頼、そしてこの世の中でしっかり生きて行く為の力の源になるものだと思います。
私がこの言葉に出会ったのは20代前半でしたが、その後の生き方を支える座右の銘であり続けました。
今でも自分のスタイルに自信がもてなくなると、この言葉を思い出します。
一流のプロを目指して地方から出てきたスティングも、第一線で活躍する有名アーティストを間近に見て、力量の違いに打ちのめされたと言います。その時、自分を支えたのが「オレのように歌えるやつはいない」という気付きでした。誰に言われなくても、自分でそう思える、という時点で、器が違います。
実際、スティングの声も歌い方も、ハスキーな中に不思議な透明感があり、メロディから浮き上がるような感じですよね。彼と同じ声質の人は今も昔も存在しないし、聞けば一発でスティングと分かる個性があります。
ポリスの魅力・似たようなメロディは一つとしてない
今の「おじさんスティング」や、世界的に知られてるヒット曲、あるいはクラシックに帰依したような最新作しか聞いたことがない人には、多分、スティングの本当の凄味は分かりにくいんじゃないかと思います。まして、ザ・ポリスの時代になると、UKの遺跡のようですよね。イマドキの流行曲しか興味のない人や、デビュー・アルバムから通して聴いたことがない人なら、「ああ、この曲なら聞いたことがあるけど、で、何がどうスゴイの?」と思うんじゃないでしょうか。
まず、ザ・ポリスの凄いところは、1978年のアルバム・デビューから、1最後となった5枚目のアルバム「シンクロニシティー」をリリースした1983年までの短い期間に、次々に音楽のスタイルを変え、「似たような曲調が一つもない」、という点なんですね。(厳密に言えば似通ったのはありますけど、アルバムに関しては一枚一枚が完全に異なります)
ヘンな喩えですが、たとえば、オフコースや松任谷由実の作る曲って、スタイルとしてはずっと似たような感じですよね。もちろん、一つ一つは名曲だし、歌詞も素晴らしいけども、基本的に「オフコース風」「ユーミン風」のスタイルが変わることはない。それがまた彼らの個性であり、魅力なのですけれど。
ところが、ザ・ポリスは、一枚一枚、異なるスタイルを打ち出してくる。
その前までパンクみたいなのやってませんでした? レゲエっぽいのもありましたよね。で、今度は、ジャズ風ですか。正当派ポップスもあるし、スタンダードなラブバラードも作っちゃいましたね、って感じで、非常にバラエティに富んでいるのです。アルバムがリリースされる度に、「全然ちゃうやん、前のと!」という新鮮な出会いがあるのですよ。これは誰にでも出来そうで、真似できるものじゃないです。
正直、有名で売れてる歌手のアルバムでも、似たような曲がだらだら続いて、BGMみたいに流れ去ることが多いじゃないですか。
その点、ザ・ポリスは、一つ一つが確実に耳に残って、BGMみたいに流れ去りません。どれがどの曲か、歌詞もタイトルも思い出せます。それは私がコアなファンだからではなく、それだけバラエティに富んでいるからです。
特に、「ゼニヤッタ・モンダッタ」「ゴースト・イン・ザ・マシーン」「シンクロニシティー」の3作は圧巻。
もちろん、曲を作るのはスティング一人ではなく、アンディ・サマーやスチュワート・コープランドの作品も混じっているから、一曲一曲、趣きが異なるのは当たり前ですけど、それを差し引いても、本当にバラティに富んでいます。
ザ・ポリスの野心と挑戦
『孤独のメッセージ(Message in a bottle)』について
そんなザ・ポリスにとって最初の分岐点になったのが『孤独のメッセージ(Message in a bottle)』。
初めてこの曲を聴いたのは中学生の時、FM大阪のPOPSベストテンを聞き始めた頃でした。
それまでもジャズや映画音楽、クラシック、ハードロック、イージーリスニングなど、いろんなジャンルの音楽に親しみ、(FM京都リクエストアワーのおかげ)、かなり耳の肥えた「ませガキ」でしたが、それでも初めて『孤独のメッセージ』を耳にした時の衝撃は忘れられません。
同じメロディの繰り返しにもかかわらず、妙に耳に残る曲調、切れのいいドラムス、何よりスティングの「メッセージ いんナッ ぼぉーとぉーるぅー」という、囁くようなシャウト。今までにない新しさを感じ、しばし宿題をする手を止めて、じっとラジオに聞き入ったものです。
好きでも嫌いでもないけれど、一度聞いたら忘れられないヒット曲。
それが『孤独のメッセージ』とThe Policeとの出会いでした。
↓ ちなみに70年代の日本の電車の中で撮影してるんですね
『ウォーキング・オン・ザ・ムーン』について
それからしばらくしてヒットチャートから姿を消し、ザ・ポリスの名前もすっかり忘れていた頃、再び、ラジオに釘付けになる日がやって来ました。
次のヒット曲、『ウォーキング・オン・ザ・ムーン』です。
「デッデデー」という印象的なベースに始まり、宇宙にこだまするようなリードギターがそれに応える。
そして天から振ってくるようなスティングの甲高いヴォーカル。
じゃいやーん・すてっぷ・さー・うぉっちゃってっ・ うぉ~きん・おん・ざ・む~ん(中学生の耳にはそう聞こえた)
その時、ラジオの前で思ったものです。
「この人、すごい才能がある。『ザ・ポリス』ってバンド、タダモノやない」と。
ちなみに、スティングは、この演奏について、ジャズ界の大御所ベーシスト、ロン・カーターに「君のベースは素敵だ」と褒められ、すごく嬉しかったそうです。彼も人の子ですね(*^_^*)
その後も個性的な「De Do Do Do, De Da Da Da」、The Policeの曲とは思えないキュートなラブソング『マジック』など、次々にヒットを飛ばし、極めつけは。宇宙的な広がりを感じさせる『シンクロニシティ』。
最後のアルバムでは、はるか形而上学の彼方に飛び去ってしまったような彼ら――というより、スティングが、解散宣言をした時は、「ああ、やっぱり」という気持ち半分、まさかの気持ち半分。
そのうち、「生きたまま伝説にするつもりなのか?!」という怒りのようなものも湧いてきて、スティング一人に振り回されたような気分でした。
実際、そうだったのだろうと思います。
ドラムのスチュワート・コープランドと決定的に合わないのは、ライブのビデオ見ても、ありありと分かったから。
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かくして『ザ・ポリス』は地球上から消滅し、今頃になって再結成して、世界中を回っているわけですが(曲調も全然ちゃうがな・・)、私の中では既に終わったグループ。今でも繰り返し聞くのは70年~80年代のオリジナルの音源ばかりで、最近の演奏にはほとんど興味がありません。
私はやっぱり、“やんちゃ”していた頃のスティングが大好きだし、次から次に新しい音楽を打ち出して、業界の重鎮や大物アーティストに喧嘩を売るようなザ・ポリスの野心と「あざとさ」にも憧れていました。
ゆえに、悟りを開いた好々爺のようなスティングは、「意外」というより「老いの教則本」を見るようで、もはや有り難い気持ちを通り越し、限りなく「退屈」に近いです。でもそれはスティングのせいではなく、年を重ねるとはそういうことなのだと思います。(良い意味で)
スティングが品性のかけらもない不良老人なら、かえって軽蔑したかもしれません。
※ ちなみに、これを書いた2012年は否定的な気持ちでしたが、今は納得して、時々、現代版も聞いてます。
CDとSpotifyの紹介
麻路さんの仰る通りです。ポリスほどストーリー性のあるバンドは他にないです。
一作目の「アウトランドス・ダムール」から最後のアルバム「シンクロニシティ」まで、まるで一編の小説を読んでる感じですもん。
でも、そこまでカネが回らんわい! という方には、こちらの2枚組ベスト盤をどうぞ。
選曲も美味しいところをすべて抑えてます。
スティングのベスト盤はこちら。