映画『魔界転生』 沢田研二 VS 千葉真一
魔界転生(1981年) – Samurai Reincarnation
監督 : 深作欣二
主演 : 沢田研二(天草四郎時貞)、千葉真一(柳生十兵衛)、真田広之(伊賀の霧丸)、緒形拳(宮本武蔵)
あらすじ
寛永十五年。島原の乱で同胞を惨殺された天草四郎時貞(沢田研二)は、悪魔ベルゼブブの力を借りて、徳川幕府に復讐を誓う。無念のうちに絶命し、現世に強い未練を残す細川ガラシャ夫人(佳那晃子)、宮本武蔵(緒形拳)、宝蔵院胤舜(室田日出男)、伊賀の霧丸(真田広之)を仲間に引き入れ、魔界五人衆として江戸に入る。
ガラシャ夫人は「お玉の方」として徳川家綱の側室となり、将軍を籠絡。政治も手に付かなくなった将軍を救うため、柳生十兵衛の父、柳生但馬守宗矩は、魔物も斬るという「妖刀・村正」を携えて江戸城に向かうが、途中、宝蔵院胤舜に出くわし、一戦を交える。宗矩は村正で宝蔵院胤舜を討ち取ったものの、自らも不治の病でその場に倒れ、死の淵を彷徨う。だが、息子・十兵衛と一戦を交えたいという熱望から、天草四郎の転生を受け入れ、魔界衆の一員となる。
一方、相次ぐ奇怪な出来事に、魔性の存在を感じ取った十兵衛は、自らも刀匠・村正を訪ね、もう一振り、妖刀を鍛える。その後、宮本武蔵と剣を交え、魔界に落ちた伊賀の霧丸に救いの手を差し伸べるが、天草四郎に阻まれる。十兵衛は、「天草四郎こそ、人の命を弄ぶ魔物」と断罪し、決着をつける為に、炎に包まれた江戸城に入る――。
見どころ
当時、人気絶頂だった沢田研二と、気力・体力とも、役者として絶頂期にあった千葉真一がタッグを組み、緒形拳、若山富三郎、丹波哲郎ら、実力派が脇を固めて、センセーショナルなCMで一世を風靡した、時代劇アクションの傑作。
真田広之と沢田研二のキスシーンも話題を呼び、これを見たさに劇場に足を運んだファンも多いはず(私もその一人)。
また、人形師・辻村ジュサブローが監修を務めた伴天連風の衣装も味わいがあり、歌手・沢田研二のユニセックスな魅力を存分に引き出している。(ちなみに、ジュサブロー氏は、NHK人形劇『新八犬伝』の人形も手がけている)
ファンによる4K予告編はこちらのURLにあります。(当時のTVCMですね)
https://youtu.be/u2z7VjKd0fs
真田広之と沢田研二のキスシーン
今の若い人は知らないだろうが、『沢田研二』といえば、私のお姉さん世代が夢中になったグループバンド「ザ・タイガース」のヴォーカリストで、あだ名は『ジュリー』。後に、「寺内貫太郎一家」というファミリードラマで、若い頃の樹木希林が、沢田研二のポスターに向かって「ジュリ~♥」と悶えるシーンが話題になったり、アイドル歌手・石野真子が「ジュリーがライバル」と歌ったりするほど、美形&セクシー歌手として有名でした。
ソロ活動後は『勝手にしやがれ』『TOKIO』『カサブランカ・ダンディ』『ダーリング』『LOVE 抱き締めたい』などの国民的ヒットを連発し、歌唱力、パフォーマンスとも圧倒的。amazonのベスト盤『ROYAL STRAIGHT FLUSH』はこちら。。
その上、ドリフターズの志村けんや加藤茶と絡んで爆笑コントを披露したり、本当に多芸多才なスターでした。
一方、相手役の真田広之は、千葉真一が主催するJAC(ジャパン・アクション・クラブ)の若手ホープとして登場し、千葉真一の強力な後押しもあって、角川映画を中心に顔を売り始めた頃。
そんな沢田研二と真田広之が、邦画としては初めて(?)、男同士のキスシーンを披露するとあって、日本中が興味津々。
TVでも連日のようにCMが流れ、その前の角川アクション映画『人間の証明』や『野生の証明』はスルーしていた女性ファンも、こぞって劇場に足を運びました。
また、主演以外にも、若山富三郎、緒形拳、丹波哲郎といった、日本映画を代表する剣豪が共演するとあって、年配層にも幅広くアピールしたのも大ヒットの要因かもしれません。
(ついでに、佳那晃子のオールヌードもインパクト大)
まさに旬のカボチャの美味しいところだけ切り取って、豪華エンターテイメントに仕上げたのが1981年の『魔界転生』。
千葉真一や若山富三郎の剣術も素晴らしく、特に、宮本武蔵 VS 柳生十兵衛の決闘は、邦画史に残る名場面ではないでしょうか。
昭和のエロスと剣技が渦巻く角川エンターテイメントの極致
島原の乱は徳川幕府軍の圧倒的な勝利に終わり、最期まで島原城にこもって戦い続けたキリシタンたちはことごとく惨殺されます。
あまりの地獄絵に、キリシタンを率いた天草四郎時貞は神の教えに別れを告げ、徳川幕府に復讐すべく、暗黒の力と結託します。
「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム、我は求め訴えたり」という黒魔術の呪文を唱えて。
そんな四郎が最初に魔界衆に加えたのが、細川ガラシャ夫人。
夫・細川忠興公の裏切りにより非業の最期を遂げたキリシタンにして絶世の美女です。
細川家の菩提寺・秦勝寺にて、村からさらってきた娘の身体にガラシャ夫人の御霊を憑依させる四郎。
やはり沢田研二は実力派歌手だけあって、「あんだらば~、さらば~ん、む~~んん」という呪文にエコーがかかって、ものすごく上手い。
また、霊界を漂うガラシャの声を演じている女優さん(名前が分からない!!)も素晴らしく、この場面を見るだけでも価値があります。
ちなみに、我が家では、忠興公の「見事じゃ! その貞女ぶり! この忠興、畏れ多くて、近寄ることもできぬ!」という台詞が流行りました。
さらに老齢と病で無念のうちに命を落とした宮本武蔵、女性への煩悩が断ち切れず、自らを恥じて命を絶った宝蔵院胤瞬、甲賀忍者の奇襲により伊賀の里を滅ぼされた美しい若者・霧丸を転生させ、徳川幕府を混乱に陥れるべく江戸に向かいます。
まず転生したガラシャ夫人が「お玉の方」と名乗り、徳川将軍・家綱に接近。お玉の身元に不信を抱いた伊豆の守は甲賀の忍びに即刻、お玉の方を切り捨てるよう命じますが、天井裏に潜んでいた霧丸と、復讐に訪れた四郎によって、ことごとく惨殺されます。
写真は四郎の武器、「島原の乱で死んでいった女たちの髪」を紡いだ「伴天連飛行・髪切丸(ばてれんひこう・かみきりまる)」。
四郎の仇敵・伊豆守(島原の乱で徳川軍を指揮)を演じた成田三樹夫の悶え方がハンパなく上手い。
こうしてお玉の方は将軍・家綱の愛妾となりますが、お玉の妖しい魅力に夢中になった家綱は一ヶ月も大奥に籠もったまま、政道も立ちゆきません。
(ちなみに、将軍様とお玉の方の絡みも昭和のエロス満開で、佳那晃子のおっぱいが微妙に垂れている点がいっそうエロいんですね。わらわの肌と上さまの肌が・・・みたいな)
魔王ベールゼブブと結託した四郎の呪いにより、各地で農作物が真っ黒になって枯れるという現象が相次ぎ、民衆の不満も増大します。
一方、柳生十兵衛は魔物の存在を感じ取り、伝統の刀師・村正を訪ね、魔物を斬るための刀を一振り、鍛えて欲しいと懇願します。
すでに刀匠を引退し、病の床にある村正は、十兵衛の頼みを断ろうとしますが、それ以前に、父・柳生但馬守宗矩からも「魔物を斬る刀が欲しい」と相談を受けた事を思い、最後の力を振り絞って、十兵衛と共に刀を鍛えます。
精根尽き果てた村正が、おもむろに神棚を斬りつけ、
神に遭うては神を斬り、魔物に遭うては魔物を斬る。これが妖刀・村正でございますぅぅぅぅ~
という言葉を残して絶命する場面がいいですね。
さすが霊界のメッセンジャー。
丹波哲郎せんせいの独壇場です。
妖刀・村正を手にした十兵衛は、宮本武蔵の挑戦を受け、船島の海岸で決闘します。
日本を代表するアイドル系フルーティスト・神崎愛が演じる「おつう」の横笛が流れる中、十兵衛と武蔵が一騎打ちする場面は圧巻です。
ラストは、江戸城での一騎打ち。
ここでも若山富三郎さんの殺陣が素晴らしく、華麗な剣さばきに見とれるほどです。
ネタバレ動画になりますが・・
できれば、アマプラなどで全編視聴して下さい。
【コラム】 『転生』は、人間の弱みにつけこみ、命を弄ぶ
なぜ柳生十兵衛は天草四郎時貞を「許せない」と思ったのか。
それは、十兵衛の台詞、「おまえは人間の弱みにつけこみ、数々の命を弄ぶ」によく表れています。
『転生』は、一見、人の願いを叶えているようですが、その実、苦しみや悲しみをいたずらに長引かせ、煩悩の地獄に突き落とすことに他ならないからです。
誰しも願いを果たせぬまま死んでいくのは辛いものですが、だからといって、転生して、永遠の命を生きれば、何でも望みが叶うというわけでもありません。
たとえば、伊賀の霧丸は、魔界衆に転生することにより、村人を惨殺した甲賀・玄十郎と松平伊豆守を討ち取って、仲間の恨みを晴らすことはできましたが、魔界の男であるがゆえに、初めての恋が実ることはありませんでした。
また、宮本武蔵も、柳生但馬守宗矩も、結局は柳生十兵衛に討ち取られ、日本一の剣士になる宿願は果たせずに終っています。
きっと何度転生しても、結果は同じだし、転生すればするほど、恨み辛みも長引いて、思うにならない現実に苦しみ悶えるだけではないでしょうか。
そう考えると、死にゆく者の無念を理解しながらも、静かに死なせてやるのが本当の優しさであり、冥福なんですね。
霧丸も、転生して、四郎の手先となったものの、心の奥底では、呪いに加担して、村人たちを苦しめることに罪悪感を抱いていました。
その苦悩を知った柳生十兵衛は、一度は霧丸を斬り捨てようとしますが、「生きて、生き抜いて、苦悩と闘え」と、もう一度、生き直すチャンスを与えます。
しかし、その願いは敵わず、霧丸は四郎に無残に殺されてしまいます。
だから余計で、命を与えたり、奪ったりする『転生』が許せないわけですね。
本来、神の使徒として、人々に平安をもたらすはずだった天草四郎が、本作では「徳川憎し」のあまり、人の命を弄ぶ魔物になってしまいました。
柳生十兵衛は、さしずめ「四郎に弄ばれた人たちの良心の化身」といったところでしょうか。
全身に梵語を刺青し、「魔」に挑む姿が圧巻です。
天草四郎と美輪明宏
クライマックスの「炎の一騎打ち」は、一部特殊効果もありますが、実際に大量のガソリンを用い、本物の火の中で撮影されました。
ところで天草四郎と言えば、美輪明宏さんが「生まれ変わり」として有名ですが、この映画が制作される際、天草四郎の霊魂から「映画化に霊障はないが、撮影中に小さな事故は起きるだろう」とのメッセージを受けたとのこと。
昔から、怨みを残す歴史上の人物を映画化などすると災いが起きる、と言いますでしょ。
この映画の制作スタッフもお祓いしたかお参りに行ったかで、ちゃんと故人に敬意を払って撮影を進められたとか。
それでもやっぱり江戸城炎上のセットでスタッフが火傷を負い、現場も騒然としたけれど、天草四郎の預言通り「小さな事故」で済んだそう。
そういう噂がまことしやかに伝えられた、いわくつきの作品です。
どちらが主役? 沢田研二と千葉真一のクレジット争い
本作の主役は、沢田研二と千葉真一。
どちらも引けを取らないスターで、優劣など付けようがありません。
そこでスタッフが苦心したのが、配役の表示。
沢田研二と千葉真一、どちらをトップにするかで随分悩んだそうです。
観客はどちらでも気にしませんが、役者にとっては重要な格付けです。
そこで考えついたのが、トップに沢田研二、最後に千葉真一の名前を配するというアイデア。
ポスターでも、左右対称、どちらも一番に位置づけすることで、両者の格が尊重されています。
そうした点も注意しながら観ると、当時のスタッフの気づかいや心意気が窺い知れます。