ポーランドの家庭を訪問すると、必ずと言っていいほど、あちこちに家族の写真が飾られています。
居間や寝室はもちろん、キッチン、廊下、玄関、冷蔵庫の扉に至るまで、まるで家全体が家族のアルバムみたいです。
また、財布に家族の写真を忍ばせている人も多いです。(特に男性)
スーパーの会計で、前の人が財布を開いた時、妻子の写真が目に入ることが多いです。
愛する人の姿をいつも目に触れる所にとどめたい。肌身離さず身に付けて、その温もりを感じたい――という想いは、遠い昔から、人類共通の願いでした。
写真もビデオも無い時代、西洋絵画が著しく発達したのも、決して権威や芸術の為だけではないでしょう。
ベルばらでは、マリー・アントワネットの肖像画を描くルブラン夫人が登場します。
ルブラン夫人こと、エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランは実在の著名な画家であり、マリー・アントワネットとも大変親しかったと言われています。
私がずっと以前に読んだ文献では、ルブラン夫人は「実物より、ほんのちょっぴり美しく描く」という点で、宮廷社会から絶大な人気があったそうです。
今に残るマリーの肖像画を見ても、彼女の優しい魅力が十二分に伝わって、なるほど、夫人に描いて欲しいと願う女性はひっきりなしだったろうと容易に想像がつきます。
現代にたとえれば、ELLEやVOGUE(フランス発の世界的ファッション誌)の専属カメラマンにプロ仕様のポートレートを撮ってもらうような感覚かもしれませんね。
ベルばらでは、絵筆をとるルブラン夫人が、「王妃さまのお肌があまりにも美しくすきとおっていて、どんな絵の具をつかっても、その色がでないのでございますもの」と溜め息をつく場面がありますが、その苦心は頷けるものがあります。
私が住んでいる地域は大半がスラブ系で、色白の方が多いのですが、たまに美術館から抜け出たような、非常に美しい肌の持ち主に出会うことがあります。その白さたるや、ほんのり温めたミルクにバラの花びらを溶かしたような愛らしさで、笑うと、白桃のような輝きを放ちます。
これを絵に描くとしたら、ピンクと白と肌色を少しずつ混ぜて……いやもう、何色を使えばいいのか想像もつきません。マリーの美しい肌を前にルブラン夫人が溜め息を洩らすのも、もっともでしょう。
ルブラン夫人が描いたマリーの肖像画で有名な作品の一つに、『マリー・アントワネットと子供達』(ベルサイユ宮に展示)がありますが、これは王妃の人気回復のために、彼女の母親としての魅力を強調して描かれたと言われています。しかし、その満ち足りた姿がかえって民衆の反発を招き、革命への抑止力にはなりませんでした。
この絵の中で、マリーは幼いルイ・シャルルを膝の上に抱いていますが、こんな小さな坊やが母親の膝の上でじっとモデルを務めているはずがなく、やんちゃ盛りの子供達を一つの構図にまとめ、マリーのあふれんばかりの愛と威厳を表現したのは、やはりルブラン夫人の腕によるものが大きいと言えましょう。
表面的には、王侯貴族のお抱え画家のようなイメージのあるルブラン夫人ですが、マリーの肖像画に込めた想いは画家以上のものだったろうと想像します。
今も額縁の中から優しく微笑みかけるマリーの姿を見る時、決して虚飾ばかりではなかった彼女の人生と、彼女に優しく寄り添う友人の温かな眼差しを感じずにいないのです。
でも、もっと好きなのは次のエピソード。
「母になるというのは……きっと どんなにか しあわせな気持ちでしょうね」
大人の女性になると、こういう台詞が胸に染みるようになるんですね。
あまりにも……あまりにも有名な「もんくがあったら ベルサイユにいらっしゃい」。略して『もんベル』。そういう名前のファンサイトもありました。
日本におけるポリニャック伯爵夫人のイメージは、これで決定づけられたといっても過言ではない。。。
By <a href="https://en.wikipedia.org/wiki/en:%C3%89lisabeth_Vig%C3%A9e_Le_Brun" class="extiw" title="w:en:Élisabeth Vigée Le Brun"><span title="18th- and 19th-century French painter (1755–1842)">Élisabeth Louise Vigée Le Brun</span></a> - current upload: own work, photo taken by Cybershot800i, Nov 28, 2012 in Grand Trianon, Versailles., Public Domain, Link
コミックの案内
第2巻『栄光の座によいしれて!』では、ルイ15世が崩御し、若くして即位したルイ16世とマリー・アントワネットの運命、地位と権力に溺れ、賭け事やお芝居に夢中になるマリーの暮らしぶり、ポリニャック夫人らを贔屓して、他の貴族との関係が悪化する過程などが描かれています。マリーとフェルゼンの恋がメインです。
【画像で紹介】ルブラン夫人の肖像画
非常に有名なマリー・アントワネットの肖像画。マリーは青色が好きだったそう。
こちらが人気取りの為に描かれたという家族の肖像画。しかし、満ち足りた表情が、かえって民衆の反感をかったと言われています。
サテンの輝きが素晴らしいですね。
こちらは「もんくがあったら ベルサイユにいらっしゃい」で有名なポリニャック夫人。
優雅な方だったんでしょうけど、ベルばらのキャラのイメージがあまりに強烈で、日本では「もんくがあったら」を想像する人が圧倒多数だと思います^^;
By current upload: own work, photo taken by Cybershot800i, Nov 28, 2012 in Grand Trianon, Versailles., パブリック・ドメイン, Link
ルブラン夫人の自画像。爽やかな雰囲気が伝わってきます。
逆に、国王一家を醜悪に描いて、意思表示したのが、スペインの宮廷画家で名高いフランシスコ・デ・ゴヤ。
よくクレームが出なかったものだ。
タイトルは『カルロス4世の家族』
ルブラン夫人に関する書籍
マリー・アントワネットに愛され、その華麗なる肖像画のほぼすべてを手がけ、数々の貴人たちを描き続けた稀代の肖像画家。
革命のパリを生き抜き、ヨーロッパを放浪した一人の女性の生涯を鮮やかに描き出す、本邦初の傑作評伝。
マリーの取り巻きの何人かは惨殺されている中、激動の時代をたくましく生き抜いた一人です。
マリー・アントワネットの宮廷画家---ルイーズ・ヴィジェ・ルブランの生涯
フランス王妃を虜にした美しい衣装、斬新なアイデア──第三身分でありながら18世紀ヨーロッパのファッションを牽引し、オートクチュールの礎を築いたモード商ベルタンの波乱の生涯。才能一つで階段を駆け上り、王妃と一体となりながらモードを通じて貴族社会に君臨したベルタンは、「モード大臣」と呼ばれた。彼女は自らのセンス自体を商品と考えた初めての人物で、ファッションデザイナーという職業の祖、オートクチュールの礎となった。
いつの時代もやり手の女性は存在するということで。ココ・シャネルの先輩みたいな印象ですね。