『ヒトラーの忘れもの』(2015年)
あらすじと見どころ
第二次大戦が終結し、デンマークからドイツ兵が引き揚げていくが、海岸には大量の地雷が埋まったままだった。
デンマーク軍は、ドイツ軍に罪を償わせるため、捕虜をかり出して、地雷撤去に当たらせる。その多くは10代の少年兵だった。
下手すれば即死、よくて重傷という、命がけの作業に、少年兵のグループを率いるラスムスン軍曹は神経を尖らせるが、いつか故郷に帰る日を心の支えに、懸命に地雷撤去に当たる少年たちの姿を見るうちに、ラスムスン軍曹の心に温かな感情が芽生える。
だが、デンマーク軍の方針は変わらず、少年達の身を案じるラスムスン軍曹はある行動に出る……。
■ 見どころ
デンマーク映画らしい、抑制の効いた映画です。
下手に感情を煽るのではなく、苛酷な任務に投じられた少年兵たちの日常と、地雷撤去作業を淡々と描いています。
しかし、一瞬、その運命が少年達の足元で炸裂する。
変に扇情的な場面がないからこそ、この炸裂した瞬間が非常に衝撃的なんですね。
それとは対照的に、北海沿岸の風景が美しく、なぜこの美しい浜辺に、そんなにも大量の殺人兵器を置き去りにできるのか。
またその撤去を、十代の少年達に押しつけ、独裁者の尻拭いをさせるのか。
でも、これが『戦争』と言われたら、その通りなのです。
そこに理屈も、同情もなく、多くの血が流れるだけ。本当にそれだけです。
まだあどけない少年たちが、故郷の父母を思いながら、一日も早く仕事をやり遂げて、家に帰ろうとする。
その心情を思うと、一番の鬼畜は誰か――という話です。
戦争で人生をめちゃくちゃにされたのは、デンマーク側も同じ、でも、その中に、人間らしい勇気と思いやりがあるのが、何とも切ないです。
テーマが重いだけに、何度も見返したい作品ではないですが、かつて、こういう出来事があったと知っておくだけでも勉強になるのではないでしょうか。
【コラム】 戦時下の愛憎が埋まる 地雷の地
英語のタイトルは、『Land of Mine(地雷の地)』。
邦題の『ヒトラーの忘れもの』より、生々しく実状を伝えている。
確かに、「忘れもの」といえばその通りだが、忘れ物とは忘却のことであり、ヒトラーと独軍はわざとデンマークの海岸に地雷を置いた。
自分達が滅びた後も、敵が地雷の犠牲となり、国家もろとも衰退すればよい、という発想である。
だから『ヒトラーの忘れもの』ではなく、『地雷の地』が正しい。
さらに穿った言い方をするなら、これは大人社会の永遠の罪業と言える。
大人たちが残した地雷に投じられるのは、少年たちなのだから。
さて、本作で少年達の父親代わりとなるラスムスン軍曹は、決して戦地の英雄ではない。
どちらかと言うと、荒くれ者であり、傷だらけで行進するドイツ兵にも憎悪を剥き出しにする。
独軍の少年兵といえど、ラスムスン軍曹にとっては、憎い敵国の兵士だ。可愛いわけがない。
ラスムスン軍曹も、当然の如く、少年兵を虐待する。
だが、腕を吹き飛ばされた少年兵が、「ママ! ママ!」と泣き叫ぶ姿を目の当たりにして、ほんの子供であることを思い知る。
戦争は大人の責任だが、子供には何の罪もない。
そうと気付く心情の変化が、本作の最大の見どころだ。
ハリウッド映画なら、ここで肩を抱き合い、くさい台詞の一つも吐いて、感動的なサウンドトラックが流れるのかもしれないが、そこはさすがにデンマーク、アンデルセンの国である。
そんな安っぽい真似はせず、アンデルセンの子孫らしく、詩的に物語は運ぶ。
どちらかといえば、台詞は少なめで、「海」「地雷」「かけっこ」といった情景の中に重要なメッセージを描いている点が本作のポイントだ。
近所の住民との交流も、肩を抱き合うのではなく、笑顔のみである。
だが、その笑顔が全てを物語っている。
本作を見て、ただただ思うのは、平和的解決に「ご高説」は必要なく、人間の良心と、ほんの少しの勇気が、世界をより良くするということだ。
今では、ドイツも、デンマークも、特にこだわりはなく、デンマークの海岸も双方の観光客で賑わっている。
かつで、地雷の地で、多くの少年兵が命を落とし、デンマークの大人たちも鬼のようにその任務を強いたことなど、誰も想像もしない。
怨讐を超えて、そういう時代をもたらしたのは、政治家でも、企業家でもなく、ラスムスン軍曹をはじめとする末端の人々である。
そういう意味では、憎悪より、愛が勝った――と言えるのではないだろうか。
実際、双方がどんな思いで地雷撤去に当たったのかは分からない。
ある者は憎み、ある者は慈しみ、そこには現代の日常と同じような心象風景があっただろう。
ただ一つ、確かなのは、多くの犠牲の上に現在の平和がある、ということだ。
作品情報
監督 ; マーチン・サントフリート
主演 : ローランド・ムーラー(ラスムスン軍曹)、エペ大尉(ミケル・ポーフォルスゴー)、ルイス・ホフマン(セバスチャン)