社会学者の加藤諦三先生の本に『愛されなかった時どう生きるか 甘えと劣等感の心理学 PHP文庫』というものがありますが、今は「愛されなかった時」より、「自分が否定された時」の方が心に刺さるのではないでしょうか。
否定には、落第、不採用、友だち解除、フレンド申請無視、レスポンス無し、など、様々なケースが含まれます。
私のようなおばさんになると、開き直りの知恵も身につくので、「ああ、そうですか」で済みますけど、十代、二十代の若い方はそうはいかないでしょう。私も、あの頃は意味が理解できず、鬱々、悶々としたことがたくさんあります。
そんでもって、社会に出ると、「否定」みたいなことはウンザリするほどあります。
「我が社の新商品『ボリボリ君』はいかがですか? 15年かけて開発した、秘伝のアイスです!!」
と意気揚々と売り込みに出掛けても、
「うちはガリガリ君がよう売れてるから、もう、ええですわ」
と断られるような場面、いっぱいあります。
世の中の人も物事も、ほんと、自分の都合良くは作られてない。
営業をするとよく分かるけど、本当、シビアなものですよ。
しかしながら、逆の立場に立てば、納得いくこともたくさんあります。
たとえば、「南極探検隊の参加者、大募集」という企画に、「僕、寒いの苦手なんです。食事はオーガニック野菜しか口にしません」という男性A君が応募したとして、採用するでしょうか?
その人がどれほど頭脳優秀、容姿端麗、肉体もスポーツ選手のように強靱だとしても、寒いの苦手で、オーガニック野菜しか食べません、みたいな人、南極探検隊に加えることは難しいですよね。
だから、企画側は「申し訳ありませんが、採用できません」というような返事をせざるを得ない。
採用するなら、多少、キャリアや知識で劣っても、何でも食べるし、どこででも寝る、万事に柔軟性があって、忍耐力のある人を選ぶでしょう。
それはあくまで「南極探検隊」の都合であって、A君自身の人格の問題ではないのです。
しかし、A君が頭脳も体力も優秀で、大学時代もサークルの会長を務めたり、自分の能力に自信満々だとしたら、自分の全存在を否定されたような気持ちになるかもしれません。
A君も、大手の商社に行けば、即採用かもしれないのに、「相手の都合」と「自己の存在価値」を切り離して考えることができず、「南極探検隊に不採用だった」という事実だけで、もうダメ、何やってもダメ、将来もダメ、ダメダメダメ……と奈落に落ちていくのです。
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相手からNoのリアクションを受けた時――友だち解除されたとか、「いいね」してくれなかったとか、こちら側の能力や気遣いや親愛の情を否定されるような結果を目の当たりにすると、誰でもいい気持ちはしませんし、どんな人も多少気持ちを傷つけられるものです。
でも、相手の立場になって考えてみれば、自分の全存在を否定されたわけではない、ということも解ってくると思います。
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たとえば、「恋人にするならキャンプやハイキングに付き合ってくれるアウトドア派の女の子がいい」と思っている男性に、「毎週、彼氏とお洒落なレストランで食事したい」みたいな女の子がアプローチしても、よほど相手に対する愛情や信頼がない限り、長続きしません。最初は互いの違いが新鮮に感じられても、今週はショッピング、来週は彼氏付きの女子会、と、苦手な事に付き合わされるうち、百年の恋も冷めますよ。男性の方は、「今度の連休、乗鞍岳に行かないか?」「じゃあ、近辺で手頃なペンションを探してみるわ。装備は何を持っていけばいい?」と打てば響くような女の子がいいでしょうしね。
その末に、男性と上手く行かなくなって、別れることになったとしても、その女性の全存在が否定されたわけではなく、ショッピングや女子会に付き合ってくれるような男性を探せばいいわけで、恨んだり、落ち込んだりする事でもないんですね。
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恐らく、「自分の全存在を否定された」とパニックになったり、相手を恨んだりする人は、「相手の立場に立って考える」というのが苦手な部分があるのではないでしょうか。
相手の立場に立って考えれば、我が社の新商品がすぐに売れなくても、取引先を恨むことはないし(先方にも先方の経営がある)、自分が不採用になっても、必要以上に自分や相手を責めることもない(寒いの苦手に南極探検隊はムリ)。
友だちがフレンド解除しても、(まあ、何か気に入らなかったんだろう。私だって、隣のB子にフレンド申請されたら、ちょっと嫌だもんな~)と、苦手な気持ちはお互い様と思えるし、レスポンスが無くても、(まあ、忙しいんでしょう。私も面倒くさい時あるし)と、相手との間に距離を設ける事ができる。
そんな大騒ぎしなくても、何でもない事だというのが解ってくる。
Noと言われたら、また次に行けばいいだけの話。
別に、あなたの能力や人格が丸ごと否定されたわけでもなければ、あなたに何の可能性も、長所も、無いわけじゃない。
たまたま「需要と供給のタイミングが合わなかった」というだけです。
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ノーレスとか、解除とか、一つの否定的な事実だけで、自分自身をそっくり否定するのは止めましょう。
そんな事を言い出せば、世の中の営業マンは、みな涙の海に沈むより他ないのです。(不況のせいにしたくなるけどなぁ(^_^;)
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ついで言うと、数年経ってから「断ってくれて、ありがとう!」「振ってくれて、ありがとう!」みたいな事例もいっぱいあります。
それが生きることの面白さ。
来年の今頃には、クビにしてくれて、ありがとう! と万歳三唱してるかもしれないですよ。
↑ オレが危ないんじゃない、お前が危なかったんや! という事実が判明する。