子供向け ファストフード解説本『おいしいハンバーガーのこわい話』 何を食べ、どう生きるか

目次 🏃

子ども向け 『おいしいハンバーガーのこわい話』

エリック・シュローサー著『おいしいハンバーガーのこわい話』は、アメリカでベストセラーとなった『ファストフードが世界を食いつくす』をティーン向けに分かりやすく解説した本だ。

決して堅苦しい教科書ではなく、随所に描かれたフライドポテトやハンバーガーのイラストも愛らしい。

おどろおどろしい内臓の写真を掲載して、「病気になるぞ」と脅したり、偏った食事療法を進めたり、上から目線で「食べるな」と断じる本ではなく、「潜入! ファーストフード工場の秘密」のように、事実が淡々と述べられている。

おいしいハンバーガーのこわい話
おいしいハンバーガーのこわい話 ペーパーバック
著者のエリック・シュローサーは、1959年、ニューヨーク生まれ。アトランティック・マンスリー誌やニューヨーカー誌などを中心に活躍するジャーナリスト。緻密な調査取材に基づく記事は高い評価を受けている。著書に『ファストフードが世界を食いつくす』『ファストフードと狂牛病』『巨大化するアメリカの地下経済』(いずれも小社刊)。『ファストフードが世界を食いつくす』は世界的なベストセラーとなり、全米の大学で指定図書になっている。

内訳は次の通り。

  • みんなの大好きなハンバーガーがどのように誕生したのか
  • ドライブスルー・レストランの登場
  • マクドナルド兄弟の考え出したファーストフード・システム
  • 落ちこぼれセールスマンが考え出したフランチャイズ方式
  • ファーストフード店の爆発的な増加が畜産業や精肉業者に与えた影響
  • みんなの大好きなパテ(挽き肉)の中身
  • アメリカのカフェテリアと子供の肥満問題
  • その他

現代アメリカの食生活と産業を取り巻く様々な社会問題が非常に分かりやすい語り口で紹介されている。

それらは決してファーストフード産業や創始者らを貶め、不買運動を煽る内容ではない。

あくまで「事実」を淡々と綴った上で、「それでも君たちはハンバーガーを食べ続けますか?」と問いかける、好感の持てる本である。

原題は、『Everything you don’t want to know about Fast Food(君たちが知りたくないファーストフードのすべて)』。

タイトル通り、子供たちが知りたくない現実(どんな肉が、どんな風に加工されているか)が、親切に書かれている。

『おいしいハンバーガーのこわい話』目次

本書では、誰もが知っている有名ブランド「KFC」「ドミノピザ」「GAP」といった企業がいかにして誕生したかも紹介しており、商業と社会の関わりを考える上でも興味深い。

おいしいハンバーガーのこわい話

この章では、子供をターゲットにしたマーケティング戦略が紹介されている。

普段、なにげなく目にするコマーシャル。親や祖父母に対するおねだりが、どのように企業の利益に繋がっていくか。
「プレイランドは子どもたちを呼び込み、子ども達は親を呼び込み、親はお金を呼び込む」という一文が、すべてを物語っている。

※ ちなみにアメリカのディズニーワールドでは、ファストフード・チェーン店は撤退している。しかし、あそこのフードコーナーで提供されている料理は、ファストフードと五十歩百歩。いわずもがな、という感じです。(給仕がサーブする二つ星以上のレストランは別)

子供をターゲットにしたマーケティング

この章では、「ハッピーセット」のおもちゃを作る発展途上国の労働者の現実を紹介。

ハッピーセットに関するエピソード

この章では、フライドポテトの味を決定づける「人工香料」について解説。
現代の食品工業において、絶対不可欠な人工香料。
わたしたちが「おいしい」と感じる味も大半が化学成分で合成されている現実を考える。

ふつうの家でいちごのミルクシェイクを作るとき、必要なものは、氷とクリーム、いちご、砂糖、バニラ少々だけ。
いっぽう、ファストフードのストロベリー・ミルクシェイクの原料はというと……この人工いちご香料には何が含まれるのか。
以下のおいしい化学物質だ。酢酸アミル、姉トール、蟻酸アニシル、硝酸エチル、メチルアセトフェノン、etc。

人工香料について

この章では、みんなの大好きなチキンナゲットになる為に、品種改良され、恐ろしい早さで異常に大きく成長し、工業的に処理されるニワトリや、人間による牛の解体処理現場について生々しく記述されている。

チキンナゲットについて

この章では、ファストフードの大量摂取から病的に肥満になり、ついにはバイパス手術を受けることになった少年の闘病生活を紹介。
そして、そんな病児たちの通う病院にさえマクドナルドの支店がある、というのが驚愕の事実。

おいしいハンバーガーのこわい話

最終章では、企業のマーケティング戦略によってファストフード&清涼飲料水まみれになった子ども達の食生活に対し、個人として、学校として、どのような取り組みが出来るか、実例を挙げて紹介。

最後の締めは次の通り。

店内に入って、ひんやりした空気を肌に感じる。列に並んだら、あたりを見まわしてみよう。
キッチンで働く若者たちや、席についた客たちや、最新のおもちゃ広告に目をやる。カウンターの上の、バックライトに照らされたカラー写真をあれこれながめる。
そして考えよう。
この食べ物はどこから来るのか、どこでどんなふうに作られるのか。
ファストフードを買うという行為ひとつひとつが、何を引きおこしているのか、ほうぼうにどんな影響があるのか── そういったことを、どうか考えて欲しい。
そのうえで、注文しよう。
あるいは背を向けて、ドアから出てゆく。
いまからでも遅くはない。
ファストフードがいっぱいあるところで暮らしていても、あなたはまだ、自分の好きなように行動できるのだから。

著者は言う。

ジーンズやオートバイを買う時は、いろんな情報を吟味して、慎重に選ぶのに、なぜファーストフードはいとも簡単に口にしてしまうのか。

そして、ジーンズやオートバイは、飽きれば交換したり、修理がきくけれども、食べ物は確実に身体の一部分となり、それはどうにも変えられないんだよ、と。

*

ジャンクフードの誘惑は、子供の頃から、母の手作り料理で育った人にも、いつか訪れる。

国道沿いに燦然と輝く『M』の看板に打ち勝てるのは、案外、母の手料理などではなく、こうした『ハンバーガーのこわい話』なのかもしれない。

【コラム】 何を食べ、どう生きるか

食べる行為は、生き方を決めることでもある。

何故なら、どんなに丈夫な人でも、毎日、ハンバーガーやコーラを大量に摂取し続ければ、遅かれ早かれ病気になるし、病弱な人でも、食生活に留意すれば、生き長らえることができるからだ。

一回一回の食事に大きな意味はなくても、一日三食、一年365日、積み重ねれば、それが自分の血肉となり、人間性を形作る。

「何を食べるか」という問いかけは、「どう生きるか」という答えでもあり、美食に拘る必要はないが、無頓着であってもならない。

おにぎり一個、口にしたところで、今すぐ、何が、どうなる訳でもないが、それは確実にその人の一部となり、心身の両面から人生を左右するからである。

*

本書の真偽について、異論・反論はあるだろうが(刊行後、改善された点もある)

肝心なのは、「主張の是非」ではなく、子どもたちに考えるきっかけを与えることだろう。

当たり前のように目にするCMやキャンペーン、何の疑いもなく口にしている「イチゴ味シェーク】が、こういう意図をもって作られていると知ることで、栄養学はもちろん、食産業のあり方、しいては、世界経済の構造まで、いろいろ考えずにいられないからだ。

歴史でも、科学でも、大人が子どもに物を教える時、大人はどうしても「正しさ」に拘るが、それが正しいかどうかを判断するのは子ども自身であり、大人がジャッジして吹き込むものでもない。

大切なのは、事実をありのままに伝え、考えさせることで、一個のハンバーガーにも世界の産業と経済が垣間見えるのは、非常に興味深い。

映画『ファウンダー』 ハンバーガー帝国のヒミツ

上記のドキュメンタリーに興味をもったら、併せて、マイケル・キートン主演の映画『ファウンダー』もぜひ見て欲しい。

冴えない営業マンのレイ・クロックは、たまたま立ち寄った地方のハンバーガーショップで驚くべき光景を目にする。

高度にシステム化されたキッチン。

調理の過程を製造ラインに見立てた分業制。

使い捨てのペーパー食器。

ハンバーガーとポテトだけのシンプルなメニュー。

これは次代の食産業になると直感したレイ・クロックは、田舎者の純朴な経営者、マクドナルド兄弟に巧みに取り入り、調理のノウハウのみならず、売り上げ、経営権、果ては『M』のトレードマークまで取り上げてしまう。

あまりのひどさに、抗議するマクドナルド兄弟に対し、レイ・クロックは豪語する。

「溺れる奴がいえれば、そいつの口にホースを突っ込んでやる」

溺れる者にも止めを刺すぐらいの野心と気概がなければ、到底、全国規模のフランチャイズは展開できないと。

食文化のみならず、地域、しいては、世界経済までも大きく左右するファストフードの誕生を、生々しく描く良作。

マイケル・キートンが野心の塊みたいなレイ・クロックをスマートに演じている。

作中で、あからさまにクロックを批判することはないが、鳥獣戯画のような演出で、「それでもまだクロックは立派だと思いますか? こんなハンバーガーが食べたいでしょうか?」と問いかけているのが興味深い。

DVDとamazonプライムビデオの紹介

よくマクドナルドが制作を許可したと思うが、これも宣伝の一環なのだろう。

確かに、次代の飲食チェーンの仕組みを生み出す過程は凄いと思うが、こうまでして金と権利を手に入れたいかと問われたら・・長生きはできないよね。

普通の感覚では、えげつないの一言。

ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ(字幕版)
1954年アメリカ。52歳のレイ・クロックは、シェイクミキサーのセールスマンとして中西部を回っていた。ある日、ドライブインレストランから8台ものオーダーが入る。どんな店なのか興味を抱き向かうと、そこにはディック&マック兄弟が経営するハンバーガー店<マクドナルド>があった。合理的な流れ作業の“スピード・サービス・システム”や、コスト削減・高品質という革新的なコンセプトに勝機を見出したレイは、壮大なフランチャイズビジネスを思いつき、兄弟を説得し、契約を交わす。次々にフランチャイズ化を成功させていくが、利益を追求するレイと、兄弟との関係は急速に悪化。やがてレイは、自分だけのハンバーガー帝国を創るために、兄弟との全面対決へと突き進んでいく。

おまけ : 嘉門達夫の『ハンバーガー・ショップ』

嘉門達夫の『ハンバーガー・ショップ』。

某有名店のマニュアル主義を完全におちょくった歌。

名曲です。

全曲はこちらにUPされてます。興味のある方はどうぞ。

初稿 2010年3月18日

誰かにこっそり教えたい 👂
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