「親になるということは、子供の気持ちと、親の気持ちと、両方わかることなんだ」
アンドリュー・スタントン監督の言葉をテーマにした子育てコラムを掲載。
映画のあらすじと見どころを併せて。
映画『ファインディング・ニモ』 あらすじと見どころ
ファインディング・ニモ(2003年) ー Finding Nemo(ニモを探す)
監督 : アンドリュー・スタントン
声の出演 : 木梨憲武(マーリン)、宮谷恵多(ニモ)、室井滋(ドリー)、山路和宏(ギル)
あらすじ
臆病なカクレクマノミのマーリンは、妻のコーラルと珊瑚礁の新居で幸せいっぱいに暮らしていました。ところが、獰猛なバラクーダに襲われ、コーラルも、たくさんの卵も、食べられてしまいます。
マーリンは唯一生き残った子供を「ニモ」と名づけ、ニモは元気な男の子に育ちますが、何かと厳しいマーリンに反発して、珊瑚礁の外に出て行ってしまいます。
ところが、スキューバダイビング中の歯科医に捕らえられ、珊瑚礁から遠く離れたシドニーの歯科クリニックに連れ去られます。
息子を奪われたマーリンは、お茶目でそそっかしいナンヨウハギのドリーの助けを借りて、一路、シドニーを目指しますが、シドニーまでの道程は非常に険しいものでした。
果たしてマーリンはニモを見つけ出すことができるのか。
美しい海を舞台に、ドタバタあり、笑いありで繰り広げられる、ファミリードラマの傑作です。
見どころ
制作ドキュメンタリーでも語られているように、水の揺らぎや魚の動きが非常にリアルに再現され、「CGだけで、ここまで出来る」とピクサーの実力を改めて世に知らしめました。ストーリーボードだけでも3年の月日をかけて作られ、一切の妥協を許さない、ピクサーの意識の高さ感じます。
キャラやストーリーはお子さま向けですが、「親ばなれ」「子ばなれ」の過程を嫌味なく描いており、大人が見ても感動するのはピクサーならでは。
日本語吹替え版では、とんねるずの木梨憲武氏が意外と上手で、ドリーを演じた室井滋女史も、機関銃のような喋りが、せっかちなドリーのキャラクターにぴったりはまって、まったく違和感なし。名作「モンスターズ・インク」のメインキャラ、マイク・ワゾウスキーを演じた田中裕二(爆笑問題)もはまり役でしたが、本作のメインコンビも見事というより他ないです。
また歯科クリニックの描写もリアルで、歯科医療に詳しい人なら、作中に登場する専門用語に大爆笑だそうです。
ただ、続編となる『ファインディング・ドリー』が今一つだったので、「ファインディング・ニモ」にもマイナスイメージをもっている人も少なくないかもしれませんが、ニモとドリーはまったく別ものですし、完成度の高さにおいてはピカイチです。
今まで気乗りしなかった人も、一度はじっくり見て欲しい、親子アニメの傑作です。
『子育て』とは、子供時代をもう一度生き直すこと
本編も非常に素晴らしいですが、それ以上に心に残ったのが、メイキングビデオに収録されているアンドリュー・スタントン監督のコメントです。
「『親になる』ということは、子供の気持ちと、親の気持ちと、両方わかることなんだ」
親は「親」であると同時に、子供でもあります。
子育ての過程で、自分の子供時代や、自身の親のことを思い出し、胸がきゅっと痛くなる人も少なくないでしょう。
親に甘えられなかったり、孤独を感じたり、子育てを通して、自分自身を重ね見るからです。
泣いて転がる我が子の泣き声が胸に刺さるのも、自分の幼い頃の傷みを思い出すからでしょう。
育児の名著『ダダこね育ちのすすめ』で、幼児の癇癪との付き合い方をレクチャーされている阿部秀雄先生も『子育てとは、もう一度、自分の子供時代をやり直すこと』と述べておられるように、子育てというのは、自分の子供時代と今一度向き合い、自身の親の感情を間接的に体験しながら、最後には理解と感謝に辿り着く過程なのかもしれません。
そう考えると、子育ての本当の意義は、「親の気持ちと子供の気持ち、両方わかること」と言えなくもないですね。
「あんな親、一生許さない」と言う人もあるかもしれませんが、実際に自分で子供を育ててみれば、自分の一番嫌いな親の姿を自分の中に重ね見て、愕然とすることもあるはずです。
だからこそ、傷みと葛藤を乗り越え、赦しの気持ちに近づくことが、真の人間としての完成があるのではないでしょうか。
初稿 2011年12月9日