エミネムの『Cleanin’ Out My Closet』について
エミネムの代表作、『Cleanin’ Out My Closet』は、2002年にリリースされたエミネムの三作目アルバム『The Eminem Show(ザ・エミネム・ショウ)』に収録されたヒット曲です。
両親の離婚、父親の不在、母親との不和など、不幸な生い立ちを思わせるこの曲は、母子の葛藤を描いたPVと歌詞で注目を集めました。
実の母親とは、アルバム「The Slim Shady LP」における誹謗中傷で訴訟問題になり、この曲にも、母子間の愛憎が生々しく反映されています。
1972年10月17日生まれ。本名マーシャル・”ブルーズ”・マザーズⅢ。 12歳までカンザス・シティとデトロイトを母親と2,3ヶ月ごとに転々とし、友達もできず、トラブルの絶えない生活を送る。 「唯一の安らぎがラップだった」というエミネムが繰り出すそのライムには幼少の頃からの環境/リアルな経験が刷り込まれ、 結果的に過激に響くそのライムは類まれなる強烈な世界観を生み、全世界の若者達の熱狂的な支持を得ている。
エミネム 公式サイトより(リンク元は削除されています)
日本語訳はこちらのサイトからお借りしました。(リンク元は削除されています)
憎まれたことがあるか、差別されたことがあるか
俺はあるぜ
抗議もされたし、デモもされた
デモのプラカードは俺の邪悪な詞に向けられた
タイムズを見てみろよ
この騒動の裏には
心が病んでいるいまいましい奴がいる《翻訳困難》
心の動揺は深いぜ。海の底での爆発のように
親からぶつけられた癇癪は無視して前に進むだけ
誰からも何も奪うつもりはない
ただただ息が続く限り与え続けるぜ
朝からひたすら尻を蹴り続け、夜にはブラックリストに載る
やつらの口を酸っぱくして後味の悪い思いをさせ
ほら、やつらは俺に向かって引き金を引くことはできるが、俺を理解することはできないんだ
さあ今の俺を見てくれ、
きっとあんたは俺にうんざりしているんだろうけどな
そうだろう、母さん、
今度はあんたを笑いものにしてやるぜ
ごめんよ、母さん
あんたを傷つけるつもりは全然ないんだ
あんたを泣かせるつもりは全然ないんだ
でも今夜は、クロゼットに隠されていたものを全部ぶちまけるんだ
エミネムの生い立ちとデビューまでの道程は映画『8マイル』でも克明に描かれています。
エミネムの生い立ちをベースに、貧しい境遇から抜け出て、音楽の道を目指す若者の葛藤と挑戦を描いた青春ドラマ。クラブで繰り広げられるラップバトルの描写も素晴らしく、ライム(歌詞)には深い意味があることに気づかされる良作。テーマ曲の『LOSE YOURSELF』も名曲。
【コラム】 『愛憎』と『虐待』の違い
虐待のニュースが世間を騒がせて久しいが、虐待について語る際、一点、一つ注意すべきことがある。
それは「虐待」と「愛憎」は別ということだ。
これを混同すると、親子間のねじ曲がったものは何でも「虐待」とみなされ、加害者と被害者の関係になってしまう。
多くの場合、加害者は親であり、子は被害者に違いないが、虐待と愛憎が決定的に違うのは、後者の場合、「お互いが求め合っている」という点だ。
虐待は一方的になされるが、愛憎は求め合う気持ちが奇妙に歪んで、「馬鹿、死ね、コノヤロー」の中に「母さん、僕を見て、僕を愛して」という本音が隠れていたりする。逆の立場では、「我が子よ、ごめんね、愛し方が分からない。それでもママのことを好きでいて欲しい」みたいな。
ここに紹介するエミネムのヒット曲「Cleanin’ Out My Closet」は、母親との屈折した関係を生々しく歌いあげたものだ。
ビデオクリップに登場する母と子のエピソードは、エミネム自身のものだろうか。
いらいらとモノに当たり散らす母親の態度に怯え、クローゼットの中に逃げ込んだ息子の身体を暴力的に引きずり出したり、息子の目の前でクスリをあおったり。
男関係も上手くいかず、家庭内暴力は日常茶飯事。
その怒りと不満は全て、幼い子どもに向けられる。
普通に考えれば、こんな母親は最低で、思い出す必要もないだろうに、それでもママはママ、きれいに切って捨てられるものではない。
お互いに求める気持ちがあるから、憎みもするし、後悔もする。
これは”憎しみ”という名の愛なのだ。実に奇妙な感情ではあるけれど。
子どもはいう。
「あんたを傷つけるつもりはないし、泣かせたいわけでもない。でも、心のクローゼットをぶちまけずにいないんだ」
このアンビバレントこそ、苦しみの正体だ。
なんだかんだで、そこに愛があるから、苦しんでしまう。
本当に不要な親ならば、心が痛みもしなければ、思い出すこともないだろう。
それは母親の方も然り。
きちんと愛を返せないから、その対象である子どもに当たり散らす。
一言謝れば済むものを、決して過ちを認めようとはしない。
謝れば、自分が負けて、子どもの愛が失われると思い込んでいる。
結果はその逆なのに。
愛の扉の開け方に永久に気がつかない。
これは誰が歌っても悲しい歌だ。
こんな悲しい歌を子供に歌わせてはいけない。
エミネムのその他のヒット曲
こちらは私が大好きなエミネムの大ヒット曲『Shake That』
映像はぎりぎりセクシーですが、メロディアスで、SnoopyDoggとの掛け合いがとってもクールです。
映画「羊たちの沈黙」をモチーフとしたパワフルなVideoが印象的な『You don’t know』
若者の野心と情熱を歌う『Loose Yourself』。上記で紹介している映画『8マイル』の主題歌です。全世界で大ヒット。
スヌープ・ドッグやギャングスタ-・ラップに関するレビューはこちらも参考にどうぞ。
https://moko.onl/straight-outta-compton
CD & Spotify 、バイオグラフィー本の紹介
エミネムに興味をもったら、こちらのベスト盤がおすすめ。
「Cleanin’ Out My Closet」をはじめ、「Shake That」「Lose yourself」など、エミネムの代表的なヒット曲が全て収録されています。2枚組。
過激な言動で知られるエミネム。
ポップ・アイコンにして、レイシスト、セクシストのレッテルを貼られた社会の脅威…ポジ、ネガ両方の意味で、まさに時代の寵児(ちょうじ)となった白人ラッパー、エミネムの伝記だ。政治と経済に見捨てられたデトロイトのスラム街でいじめられっ子として育った少年時代から初の主演映画『8マイル』までの軌跡を、本人及び家族、関係者のインタビューをもとにたどっている。
いまやヒップホップ界の頂点を越え、現代アメリカのカリスマとまでなったエミネムはいかにして成り上がってきたのか…本書ではなかなか公にならない真実を明らかにしていく。
息子に嫌われた母親デビー・マザー=ブリッグス、キム・スコット(のちに彼女と結婚し、離婚)、仲間のラッパーD12、ドクター・ドレー、バス兄弟、匿名のデトロイト・プロデューサーなど、彼を語る上で必要不可欠な人間からのコメントも重要だ。
女嫌い、同性愛嫌悪、肉親やその周囲から繰り返される裁判沙汰、ペット・ショップ・ボーイズやブリトニー・スピアーズなど名指しでの批判…タブロイド紙を騒がす事件についても言及していく。マスコミ嫌いで、オフィシャルなコメントが少ないエミネムなだけにこのバイオグラフィはエミネムを知る上でとても貴重なものだ。
スキャンダラスな話だけではなく、彼の繰り出すライム(韻を踏むラップの技術)が本物だからこそ、今の成功がある。本書では、彼の生い立ちから3rdアルバム『ザ・エミネム・ショウ』の成功や半自伝的映画『8 Mile』での華々しいハリウッド・デビューまで最新の情報も記述されたエミネム完全バイオグラフィだ。
初稿: 2008年4月4日