近年、世界中にセンセーションを巻き起こし、トム・ハンクス主演の映画も公開されたダン・ブラウン原作の『ダ・ヴィンチ・コード』は、「イエス・キリストとマグダラのマリアは結婚していて、その末裔は今も生きている」という大胆な仮説のもとに創作され、日本でも謎解き本が出版されたり、TV特番が放送されたり、大変な人気でした。
『ダ・ヴィンチ・コード』には、『ローズ・ライン』と呼ばれる世界初の経度ゼロ線が謎を解く鍵として登場します。ダン・ブラウンの説明によると、1884年に世界共通の子午線の基点としてグリニッジ天文台が公認される前は、フランス人にとってゼロ度の経線はパリのサン・シュルピス教会を通るものであり、今もその事実の記念として、パリの歩道や中庭や街路には135個の青銅のメダルが埋め込まれ、南北に走る軸線を形作っているとのことです。
主人公のラングドンは、これこそがマグダラのマリアの遺骨が納められた場所を暗示するものだと気付き、ついに人類最大の謎を解き明かします。
謎解きのクライマックスには、ラングドンが辿ったローズ・ラインの起点として、「パリの心臓」とも言うべきサクレクール寺院が登場します。
このモンマルトルの丘にそびえる白亜の大聖堂は、19世紀後半、普仏戦争によって傷ついたパリ市民の心を癒す為に建造が始まり、1914年に完成しました。展望台となっている巨大なドームが特徴で、パリ市内のどこからでも見渡すことができます。
私が一番印象に残っているのは、近代美術館として有名なポピンドゥー・センターの階上から見た風景で、なだらかな丘の上に白いドームがきらきら輝く様は、まるで青空に浮かぶブラマンジェのようでした。(ブラマンジェはババロアみたいなフランスの冷菓。ブラン・マンジェともいう)
ところで、フランス革命時には存在しなかったサクレクール寺院が、ベルばらに描かれているのをご存じでしょうか。
私も最近まで知らなかったのですが、今年2月にNHK教育で放送された『知るを楽しむ 人生の歩き方(日本放送出版協会)』を読んで、初めて知りました。
池田先生曰く、「フランスに行ったこともなければ、飛行機に乗ったこともなかった。そんなお金もありませんでしたし。だから、図書館や出版社の資料室に行って、日本で手に入れられる限りの本を資料にしました。実物はまったく見ずに写真を見て絵を描いていたわけです」とのこと。
私は、池田先生のことだから、何度も現地に足を運ばれて、その感動を込めるようにして描かれたに違いないと思い込んでいました。しかし、フランスはおろか、ベルサイユ宮殿さえご覧になることなく、あの大作を描かれたと知って、とても驚いたものです。
ベルばらが連載されたのは1972年から73年にかけてですが、当時、ヨーロッパに旅行する人はまだまだ少数派でしたし、インターネットもありませんでしたから、資料集めや時代考証など、創作のご苦労は想像して余りあります。
だからこそ、誰も見たことのないような美しい薔薇が花開き、そのオリジナリティあふれる世界に、多くの読者が惹きつけられたのではないでしょうか。
勢いのままに描かれてしまったサクレクール寺院ですが、先生の努力とベルばらの魅力の前には、何の問題もないように感じます。
さて、その箇所ですが、謎を解くコード(暗号)は、「公爵」「結婚」「シャルロット」です。私も絶対的に「これ」と言い切る自信はないですが、多分、このコマだと思います。
皆さんもぜひ探してみて下さい。
参考文献
ダン・ブラウン・原作 越前敏弥・訳
『ダ・ヴィンチ・コード』(角川文庫)
ダ・ヴィンチ・コード(上中下合本版) (角川文庫) Kindle版
コミックの案内
「ド・ギーシュ公爵は若い娘がお好きなのよ」にビビった女の子も多かったのではないでしょうか。
シャルロット嬢は13歳ですよ。
多分、コレだと思う。
第3巻『ゆるされざる恋』では、マリー・アントワネットとフェルゼンが互いの気持ちを確かめ合い、アントワネットも母として、王妃として、覚醒する過程が描かれています。ロザリー、シャルロット、ポリニャック夫人、ジャンヌなど、脇の人間関係も見どころ多し。
まだ、この頃は、オスカル、マリー・アントワネット、フェルゼンの三人が主役なんですね。アンドレは4巻になってから、やっと主要キャラいりです。
オリジナルの表紙はこちら。オスカルの顔とプロポーションがだいぶほっそりしてきます。
参考になる本
上記の「勢いで描いた」エピソードは、人生の歩き方 2007年2-3月 (NHK知るを楽しむ/水)に収録されています(現在は廃刊)。
レビュー記事は、死ぬまで生き直せる NHK『知るを楽しむ(池田理代子)』に書いています。
ダン・ブラウンの『ダ・ヴィンチ・コード』
『ダ・ヴィンチ・コード』は、ルーブル美術館の館長が惨殺され、「ウィトルウィウス的人体図」を模した異様な姿で発見される事から始まります。
事件当日、館長と会う約束をしていた宗教象徴学の権威であるロバート・ラングドン教授は嫌疑をかけられ、絶体絶命の危機に陥りますが、館長の孫娘で、暗号解読官でもあるソフィーの助けを借りて、イエス・キリストとマグダラのマリアにまつわる壮大な謎に挑みます。
「イエス・キリストがマグダラのマリアと結ばれ、血筋は現代まで続いている」という設定は、各方面から批判を浴びましたが、原作も、映画も、テンポよく話が進み、一級のエンターテイメントに仕上がっています。
ネタバレになりますが、ラストシーン、『ローズライン』の謎を解き、イエスの妻とされるマグダラのマリアが埋葬された場所に辿り着く場面です。
「トム・ハンクスはとても騎士に見えない」と揶揄する声もありましたが、これはこれで良かったのではないでしょうか。
参考になる記事
マグダラのマリアに関するエピソードは、我に触れるな Noli Me Tangere ~マグダラのマリアと西洋絵画に書いています。
【旅行の思い出】 フランス ば・ん・ざ・い
私がフランス(パリとベルサイユ)に旅行したのは、2002年6月です。
あの頃はテロも暴動もなく、フランスらしいフランスの風景がありました。
ほんとに好い時に行けたと、つくづく。
オスカルもマリー・アントワネットも居なかったけども、行ってよかったです。
その時のコラムはこちら。
マリー・アントワネットの哀しみが心に流れてきた日 ~ベルサイユ宮殿探訪の思い出
ベルサイユ…
私がパリで一番感動したのが、ロダン美術館の庭園。ロダンの傑作『考える人』の向こうに、ナポレオンが眠る『アンヴァリッド(廃兵院)』の伽藍が見えるという最高の贅沢。こんな町に暮らしていたら、歴史観も美術センスも違いますよね。
ポピンドゥーセンターの屋上からの眺め。パリの情勢も大きく変わりましたが、それでも歴史と文化をずっしり感じる都市です。
エッフェル塔も雑誌やTVでは「ふ~ん」という感じですが、本物を見たら、やはり感動します。
なんだかんだでパリの心髄ですから。