「人間はね、生のままの姿が一番美しいの。何も隠すことなどありはしないのよ」
小説『Fathre’s Day』 ~裸足のアフロディーテより
この世は辛い事ばかりだから、私なら最初から産まないわ ~ミケランジェロの『ピエタ』より~の続きです。
お堅いクリスチャンのハワードは、悲しい生い立ちの少女フローレスに恋をし、友人としての思いやりから、ヌードモデルを止めるよう忠告します。
類い希な美貌をもつフローレスは、「いかがわしい」で知られる画家のアトリエに通い、ヌードを描かせていました。
フローレスは「純粋な芸術だ」と言いますが、ハワードには信じられません。
少女をモチーフとした幻想絵画を得意とする画家が、フローレスに何の興味も示さず、純粋に絵だけ描いているとは、どうしても思えなかったからです。
デートを重ね、お互いに理解が深まると、フローレスは彼を画家の個展に連れ出し、画家の代表作の一つ『裸足のアフロディーテ』を見せます。
そこには、局部も露わにした全裸のフローレスが描かれており、ハワードは真っ赤になって目を背けますが、「正面から、ちゃんと見て」とフローレスに促され、恐る恐る目を開きます。
すると、そこには、無垢で、清麗とした、ギリシャの美神が描かれていました。
彼女の言う「美」は、ハワードの考える美しさとは、大きく違っていましたが、彼女がどれほど真摯に芸術に向かい合っているか、初めて悟ります。
『人間はね、生のままの姿が一番美しいの』という言葉は、お堅いクリスチャンで、「こうあるべき」に囚われるハワードに対する、自己解放の誘いです。
画像は、 ウィリアム・ブーグローの『ヴィーナスの誕生』より。